月夜見

     里の王子、絶好調vv 〜大川の向こう

 
和裁用だろう、50センチ以上はある竹の物差しを
すらりと…ちょっと途中で両手持ちになりつつも
ズボンのベルト通しから引っこ抜き、
小さな両手でいっちょ前に正眼に構えるは。
小学校に上がったばかりだというに、
知名度ナンバーワンの中洲の里の小さな王子。

「やあやあ、
 そこにいるのは隣の里のサイキョ―忍者じゃあるまいか。
 いざジンジョーに勝負勝負!」

微妙につるつるした舌っ足らずな言いようだが、
不思議と一言も噛んではなくの、一気に口上を言ってのけ。
神社の境内、少しばかり苔むした石段の上段に陣取った坊や、
一番下の段に身構えるお兄ちゃんニンジャを睨みつければ。
そちらも物差しを手に、腰の入った見事な構えを呈しつつ、
物慣れた言い回しをご披露してのいわく。

「むむ、そこにおわすはまだ子供のくせに免許皆伝した
 中洲の里のルフィ丸ではないか。
 わっぱのくせに見上げたものよの、さあ掛かって来い。」

「おお、なんかよく判らんけど、偉そうだぞ、ゾロvv」

敵ながらやっぱりだと、
なんか微妙に違う言いようをする小さな王子がご満悦そうににっかり笑い。
物差しの刀をやあと持ち上げ、お兄ちゃんが堅く構えた刀へ えいやと打ち掛かる。
遊ぶ前に約束したのは、力いっぱい打たないこと。
でないと、物差しが折れて危ないぞ、
それにマキノさんに怒られるぞ、おやつなしになっちゃうぞと、
何度も念を押しておいたので、
そこのところはちゃんと守れていて。
ココンとぶつかっただけでパッと離れる呼吸の良さよ。

「やったなぁ、なかなか強いじゃあないか。」
「当然当然、俺の刀は大業物だからの。」

ふっふっふっと、わざとらしく悪い奴のような物言いをしてやる
サービス精神旺盛なお兄ちゃんなのへ、

『何でウチでもあれくらいの芝居っけ出してくれないかなぁ。』

小さい子のクラスの基礎トレを担当しているお兄ちゃん、
同じような愛嬌を振りまいてくれたらお稽古も沸くのにねぇと、
すぐ上のお姉さんが不満そうに言ったこともあったれど。
そちらは真剣なお稽古なのだから、
こんなおふざけをしちゃあいけないと思う、
意外と生真面目なゾロであるらしく。

 “それに。”

ルフィが相手だから出来る芝居っ気であり、
他の子らの前で同じような語りが出来る自信ははっきり言ってなかったり。
折り紙で作った手裏剣を
結構器用にえいやっと投げてくるのへ出来るだけ当たって差し上げて。
若葉の瑞々しさがしたたる、緑色の風のした、
小さな忍者もどきたち、それはお元気に駆けまわる初夏の午後。





  〜Fine〜  17.06.04.


 *幼稚園くらいの子供たちって
  結構セリフ回しも上手にアニメのワンシーンとか再現しちゃうんですよね。
  ウチの小姫ちゃんも、某セーラー服の戦士のキメ台詞、言えちゃってます。


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